3Dプリンターと知財~これまでとこれから2014年07月18日

7月17日夕方、早稲田大学において日本知財学会デザイン・ブランド戦略分科会の第7回研究会を開催しました。テーマは話題の3Dプリンター。先日国内では3Dプリンターを巡り二人目の逮捕者が出て、マスコミをにぎわせているところです。

講演はまず名古屋で弁理士をされている小玉秀雄氏。氏は名古屋工業研究所の研究員だったころ、たぶん世界で初めて1980年に3Dプリンター(光造形法)の概念を思いつき、特許も出願されています。これは3Dシステムズが特許出願する実に4年も前のことでした。しかし国内では全く反応がなく、この研究への評価が低かったことから研究者を続けることをあきらめ、弁理士資格を取って転職されるのです。ところが、弁理士として舞い込んだ仕事が、3Dプリンターの先行技術調査でした。そこで小玉氏は皮肉にも、自分の特許出願の審査請求期限が過ぎていることに気が付くのです。氏のお話は知財の扱い、技術の目利きなど、日本企業の問題点をいくつか示唆する興味深いものでした。まず研究員としての特許に関する甘さ。氏の発想は3Dプリンターの基礎的な概念であり、基本特許もあり得るところでしたが、弁理士に依頼せずに出願しているのでクレームが狭く、他社の特許成立を防げませんでした。また、現在これほどまでに騒いでいる日本企業が当時ほとんど見向きもしなかったことも驚きです。自ら目利きをせず、他社が取り組んでいるものにすぐ飛びつく日本企業の体質のようなものが垣間見えます。
次の講演者は金沢工業大学虎ノ門大学院 知的創造システム専攻教授の杉光一成氏。氏は知財検定創始者としても有名ですが、3Dプリンターと知財についていくつか論文を発表されていて、この分野の論客としては日本屈指の研究者です。意匠法をはじめ、著作権法、商標法等の知財法と3Dプリンターとの関係を明確に整理してくれました。杉光教授の話で特にインパクトがあったのは、3Dのデータという無対物の法的扱いの問題です。3Dプリンターの本質的特徴は①有体物類似の金型的性質と②拡散性にあると指摘し、「有体物がデジタル化したもの」と看破されました。デジタル化もここまで進み、すべての人がメーカーになれる新・産業革命かもしれません。データを瞬時に送ってユーザー側が自ら作ることのできる3Dプリンターは物流革命にも通ずるというのです。
つづいて、高崎充弘氏(㈱エンジニア代表取締役社長)からは中小企業にとっての3Dプリンター活用のお話をいただきました。㈱エンジニアは超高性能の工具「ネジザウルス」で一躍有名になった大阪の中小企業です。高崎社長には一昨年の知財学会年次発表会や、昨年の日中韓知財シンポジウムで北京にご一緒した仲です。㈱エンジニアでは、3Dプリンターを新製品の試作に活用しており、デザイン開発が画期的に進むようになったという事例をご紹介いただきました。将来は、個人個人に適した工具のグリップをオーダーメードで作りたいとおっしゃっていました。
4番目の講師は茂出木敏雄氏(大日本印刷株式会社 研究開発センター基盤技術研究所)です。「3Dプリンターのリスクを回避する」という講演は、3Dプリンターの持つ革新性とリスクを明確に指摘し、また銃国家である米国と日本の差も浮き彫りになりました。グローバル化が進む中で、データが国境を関係なく飛び交う現代社会においてデータを有体物化する3Dプリンターの意味が氏の講演でも明らかになりました。
最後に、特許庁企画調査課の内山隆史調整官より、最近行われた3Dプリンターに関する技術動向調査のご説明がコンパクトにありました。ヘルスケア分野で開発が活発に行われているというのは意外でした。
短い時間の中で、3Dプリンターに関して様々な視点からの講演があり、参加者も大変満足していただいたと思います。
その後行われたパネルについては後日アップしたいと思います。  

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