バナナの皮のまじめな話2014年09月21日


9月19日、ちょっと滑稽なニュースが全国に流れました。日本人教授がバナナの皮でイグノーベル賞を受賞したというニュースです。私は法事のためちょうど帰省の最中でテレビを見ていませんでしたが、カミさんからのメールで夕方知りました。なぜこのコラムにこの記事を紹介するかといえば、受賞された北里大学馬渕清資教授は私の先輩かつ師匠だからです。


授賞式の馬渕教授(イグノーベル賞公式サイトより)
馬渕教授は東工大笹田直研究室で人工関節の研究で学位を取得後、同大学助手から北里大学医学部に転じました。ちょうどそのころ私は笹田研究室に修士一年生として進学し、笹田教授と馬渕博士のご指導の元で人工関節の潤滑の研究を始めました。人体の関節の摩擦係数はとても低く、これは関節の軟骨と関節液による高い潤滑性能のおかげです。年を取ると軟骨がすり減り、関節液も足りなくなって摩擦係数が大きくなり、関節が痛んだりします。症状が進むと歩けなくなり、人工関節により関節の機能を代替せざるを得なくなります。しかし金属やセラミックスでできた人工関節は人間の関節に比べて摩擦係数がくなってしまいます。そこで我々はやわらかいプラスチックを使うことにより潤滑膜を保持し、摩擦係数を減らす研究をしていたのです。
笹田先生はトライボロジー研究(摩擦摩耗潤滑の科学)の始祖・曾田範宗教授の直系で、また日本のバイオトライボロジーの第一人者です。機械の摩擦だけでなく、人体の潤滑や人工心臓の研究に発展しておられたのです。東工大を退官後千葉工大教授として後進の指導に当たっておられましたが、残念ながら2009年に逝去されました。馬渕教授は笹田先生の一番弟子で、北里大学においてバイオトライボロジーの研究をさらに発展しておられます。そんな馬渕先生が数年前のある日テレビに出演されました。これがバナナの皮の話でした。先生は、トライボロジーの学会誌にバナナの摩擦に関する論文を掲載され、これが取り上げられたのです。https://www.jstage.jst.go.jp/article/trol/7/3/7_147/_pdf

論文を読むときわめて真面目な研究ですが、やはりテーマは滑稽で、それで日本のテレビに取り上げられたのでしょう。これが今回のイグノーベル賞受賞につながったのかもしれません。いずれにしろ、馬渕先生、おめでとうございます。また一緒に授賞式に出席された佳代子夫人、おめでとうございます。(ちなみに佳代子夫人はカミさんの実姉、つまり馬渕先生は私の義兄です...)